あてのない散歩
焼叉飯の朝食をとったあと、ぶらぶらと道を戻り、今度は海側の埋立地のほうへ向かって歩いていっ
た。
特に何を見ようという目的もなく地図もあまり見ずに気の向くまま歩いていく。必見の観光スポットを
巡るのも楽しいが、遠い国に来て、あてもなく散歩するのも嫌いではない。
しばらく前までは海岸線は現在よりも街に近かったそうだが、今は埋立地にマコタ・パレードのような
近代的かつ大規模なショッピングセンターができたため、テレビ番組「深夜特急」で夕焼けのシーンのロ
ケに使った海岸は埋め立てられてなくなってしまったらしい。
しばらく歩いているといかにも新興の街並みといったエリアに出てきた。特徴のない新しい建物が立ち
並ぶ。カフェやホテル、飲食店にショップも並んでいるが、まだ午前中の早い時間だったので人通りも少
ない。
新しい建物のわりには空調の室外機が外壁に取り付けられている。こんな暑い国なのに、空調は外付け
(後付け?)の設計なのだろうか。あてがないと余計なことばかり頭に浮かんでくる。
人気のない新しい街のはずれまで行くと久しぶりの音が…波の音だ。海岸線はずっと遠くだと聞いてい
たのだが…。小走りで建物の角を回ると海が目の前に見えてきた。
ここ数日快晴の日はなく、特に今朝はどんよりとした曇りだったので海の色も鈍い鉛のような色をして
ここ数日快晴の日はなく、特に今朝はどんよりとした曇りだったので海の色も鈍い鉛のような色をして
いる。それでもマラッカ海峡の海には違いない。遠くに貨物船が行きかう姿も見える。
狭い岸辺には花火と線香とお供えのご飯があった。誰かが海の安寧を祈ったのだろうか。
少し疲れたのでイスラム風の看板が出ていたカフェでひと休みする。隣席の人が今朝の海のような色の
飲み物を飲んでいたので、それを指差しておこそ頭巾の店員に注文する。
彼女が持ってきた飲み物を口にすると甘い紅茶だった。
店内には地元の常連の人達だろうか、軽食を取りながら談笑している。この人たちは今日は仕事が休み
なのだろうか、とまた余計なことを考えてしまう。
痩せた猫が出てきて足元にまつわりついてきた。雨も降ってきたのでしばらくこの小さなハリマオと遊
ぶ。
時間が日本の何倍もゆったりと流れているようだ。