これも一種の旅の本なのでしょうか
通勤の往復では結構本を読むことが多いです。固い内容の本だとすぐ眠気が発生し、乗り換えに失敗す
る危険がありますのでもっぱら小説や旅の本を読むことが多いですね。
た。
「神々の棄てた裸体」という本を読んでみました。石井光太氏の公式HP
本来はこれらは旅の本ではありません。
アジアやイスラム圏を中心に、貧困のなかで物乞いや売春・薬物汚染…とにかく普通の日本人の想像を
超えた社会の底辺に生きる人たちを、ほぼ彼らの目線に近いスタンスで書き綴っているものです。
著者は、上から目線で糾弾する気持ちや、改善を求めてこの本を書いたわけでもなさそうです。
どうにもならない貧困の悪循環の中で生きている人々…誘拐されて5歳までは女集団物乞いの同情をあ
つめる道具として利用され、5歳を過ぎると手足を荒々しく切断され、今度は自分自身が健常者よりは同
情と金を集められる不具者の物乞いとして地元マフィアに使われる子どもたちも含めて…の隣に座ってそ
の生きざまを見つめ、何もできない自分を責める…。とにかく彼らの姿を伝えたい、という気持ちが強か
ったようですね。
海外で物乞いに遭遇したことはありました。釜山では両足のない女性の物乞いがチャガルチ市場の濡
れた路面を二本の腕で這っていました。リスボンの広場では顔が紫の小さなブドウの房のように病変し、
目・鼻・口がどこにあるのかわからない、ものすごい顔をした物乞いを見かけました(恐ろしくてまとも
に見たのはほんの瞬間でしたが…)、しかし、これらの本に描かれているように、社会の一定の階層の
人々がすさまじい姿で物乞いする集団に出会ったことはありませんでした。
いつかはインドをはじめディープなエリアに行ってみたいと夢想していますが、そうした地域では彼ら
と否が応でも接することになるのでしょう。
石井光太氏の本は、そうした彼らを見る目線は、嫌悪や同情だけが全てではないのではないのか、とい
うことを教えてくれる「旅の本」とワタクシには思えました。著者には怒られてしまうかもしれませんけ
れども…。