祈りの街
街のいたるところにある。
人々の生活と信仰が密接につながっていることの表れなのだろう。
通りを歩いていると扉が開いているところもあり、中に入ることができる。お寺なのか、個人の家庭の
廟なのかわからないが、来訪者を拒む様子はなさそうだ。
中に気がついた自販機はこれ1台だけ。水の自販機である。500mlで10セン(約4円)。器は自分
で用意しなければならないようなので味は確かめられなかったが、暑い日はきっとおいしいことだろう。
行き当たりばったりで歩いていくうちに、扉があいている1軒の建物を覗くと中からオバサマが出てき
てきてニッコリ笑って手招きする。 少し涼みたかったので誘われるままに中に入ると、そこは「鄭和文化館」という名の博物館だった。
オバサマは微笑みを浮かべながら英語でしきりに「中で鄭和についてのVTRやパペット・ショーをや
っていますよ」と博物館の観覧を勧める。
「鄭和」の名前も初めて聞くし、特に興味もなかったが 「英語はわかりますか?」 のオバサマ
の一言に、ババ・ニョニャ・ヘリテージでの情けない体験を思い出し、よせばいいのに、
「エイゴ? ノープロブレム アルネ!」 と見栄をはって入場料を払って中に入ってしまった。
中にはいるとお客は小生だけ。オバサマは久しぶりの客?に興奮したのか、独特の絡みつくような発音
の英語で早口に展示品の解説をまくしたてる。
残念ながら細かいとことは聞き取れず、古い井戸のところで「△%&!four hundred years &%"!・・・」
と説明されると「ヨンヒャクネン!? ビックリ アルネ!」などと聞き取れた箇所をオウム返しにしてわ
かったフリをしてしまった。
オバサマは解説を理解してくれたことに満足し、さらに一所懸命早口で解説してくれたうえ、鄭和につ
いての人形劇の間も微笑みながら後ろについていてくれた。
ひととおり観覧が終わるとオバサマが「仏教徒ですか?」と訊いてきた。「葬式仏教」という英語も思
い浮かばなかったので「ソウ アルネ」と答えると、わざわざ館内の霊廟に案内してくれた。
長い線香を数本渡してくれ、マラッカ式のお参りの仕方を教えてくれた。
早口だが、気のいい親切なオバサマではあった。